ARRIA
家の前の道を少し歩いた所でおぼつかない足取りのジッタ婆の姿があった。あたしの家に向かう途中だったと言う。


「アンタまだ出歩いてたのか。家にいなきゃ駄目だろう。母さんを独りにしてはいけないよ」

「おばあちゃんこそ…あたしから挨拶に行くのに。それよりシータが…」

「…あの子の事は…心配いらない、あたし達が必ず見つけるから。きっと無事でいる」

ジッタ婆は街の誰にでも慕われていて、いわゆるアーリアの民の心のまとめ役でもある。だから何でも知っているしアジリにいた事もあるらしい。

とても長い間たった独りで生きてきた事情で人の心の機微に敏感でもある。


だから人を傷つけない嘘を吐く。


「…何か知ってるんでしょう。お願いだから何か話して」


「何も知らないよ…早く家に、家に帰りなさい」

ジッタ婆の後ろに人だかりが見える。
あそこだ。


あたしはジッタ婆を振り切りその人だかりに駆け寄った。


そしてすぐに後悔した。


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