ＡＲＲＩＡ
人だかりの中心では一人の女性が半ば狂った様に何かを叫んでいた。


見た事がある。街に常駐するヒジュラと去年位に結婚して、割と盛大に儀式を行った人だ。

相手は…そうだ。あの死んでいたヒジュラではなかったっけ。


絶叫に近い声の中に自分も死ぬ、殺す、といった言葉が聞き取れた。


あたしの後ろからジッタ婆が止めようとして追いかけてくる理由が何となく分かる。


けれどもう遅かった。

ヒジュラの奥さんはあたしに気付くと、とっさに留めようとする周りを振り切り真っ直ぐにこちらに向かって来た。


「あなたの弟を出しなさい…どこに隠したの…」


目が血走っていて顔は赤く、口の端には唾が溜まっている。

何かを本当に必死に切望し、訴えようとすると人の顔はこういう形相になるのか、と思った。

あの綺麗な顔立ちの面影はどこにも無い。

周りの人達が、今にも掴みかかりそうになっている細い体を数人がかりで押し留め、あたしと引き離した。


こんなに何かに必死になる事が今まであたしには全く無かった。

きっと巫女に選ばれてから、いやもっと前からかもしれない。あたしはどこかおかしくなってしまったんだと思う。


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表紙・目次

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