ARRIA
もし本当にそれが許されるならアジリにしか無い本を読んでみたいし、話でしか聞いた事の無い海にも行ってみたいと思う。


まだ冷たさが残る滴を拭い空を見上げると、あの雲さえもこの濡れた手に収まる様な気がした。



往来の人達の顔や建物が段々記号の様になり、あたしの足下下だけが鮮明に正しい形を為している様に見える。優越感がそう見せている様に思う。



記号の山の中から知った顔が二つ、手を繋いでこちら側に向かって来た。
五歳になったばかりの兄のシジマと妹のミギリだ。


「お姉ちゃんが街を助けてくれるの?」


シジマは右手であたしの服の裾を掴み、左手でミギリの手を握りながら問うた。


「そう、あたしが神様にお願いするの。この街を壊さないでって」


あたしの言葉に、それまでうつむいていたミギリの顔は途端に明るくなる。



「誰もケガしないんだよね?」



シジマや両親の心配をしているのだろう、可愛い子だ。




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