ARRIA
少しずつあたしを運ぶ動きが緩やかになる。
一歩一歩進む様になりやがては止まった。


山頂に着いたのだろう。



「降ろせ…」
「夜が明ける前に」


ただの記号になった人達がそれぞれに声を挙げるけれど、その一言一言を認識する事はもう面倒だった。



「かわいそうではあるな」
「何を…お前もあの若いヒジュラの様になりたいのか」
「俺は別にアイツの様に庇ってる訳じゃない」



山頂から望む景色はまるでこの世のものとは思えない美しさだった。
余りに雄大で総てのものがここにある。
雲も山も街も星も。

これが神の視界か。




「誰がやるんだ」
「お前がやるんだ」「街の子供の様に」「子供の父親の様に」




この景色を何か残す方法があればとても素晴らしいのに、と思う。
絵ではなくこの視界のままに、まるでその場に来た気になれる様な。
手に収まる大きさが良い。








ゴキン。









< 70 / 71 >

この作品をシェア

pagetop