婚姻届と不埒な同棲
「懐かしいな…」

結局、言われるがままに拓斗くんの部屋まで来てしまった。

でも、これは来てよかった。

拓斗くんの部屋は、私がメイドをしていた頃とそんなに変わっていない。
一番慣れ親しんだ勉強机には、私も写っている写真が飾られている。

「それ、俺が大学に合格したときの記念写真。
俺よりも萩花の方が喜んでた」

写真をそっと手にとってみる。

もう何年も前のことなのに、昨日のことのように鮮明に思い出せる。

「本当に嬉しかったんだよ。

だって私が勉強教え始めたときは、酷い点数ばっかりとってたから。大学合格なんて奇跡よ」

「うるせーな!」

こうして部屋を眺めていると、なんでだろう…。
どんどん温かい気持ちになる。
でも同時に、胸がぎゅっと締め付けられるように痛い。

それはきっと、思い出してしまうから。

ここは、家族を失った絶望から立ち直らせてくれた場所。
だからこそ、その絶望を時々眺めてしまうんだ。
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