婚姻届と不埒な同棲
トントンと小刻みな音が聞こえてくる。

「なんで?
お金持ちのボンボンなのに、どうして玉ねぎをそんな早く切れるの?」

「男でも、ボンボンでも、料理くらいできた方がいいと思っただけだ。

案の定、俺の奥さんになる人は随分個性的な技術で料理するみたいだから」

不意にぶつけられた彼の思いに、無防備な私の心は大きく跳ねる。

顔が熱くなるのを止められない。

「こ、これから勉強しようと思ってたの!」

「じゃ、俺が切ってるとこしっかり見てて。
それが勉強のファーストステップ。
見て学ぶのも大事だから」

「はーい」

見事な手際だ。
次々と野菜たちが鍋の中へ入れられていく。
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