婚姻届と不埒な同棲
ホテルの外へ出ると、冷たい風が吹いていた。
アルコールで火照った身体にはこれくらいがちょうど良い。

ふと上を見上げると、ホテルの最上階の窓に明かりが見える。

あそこに拓斗くんがいるのか。

そういえば、拓斗くんから身分の違いを気にした発言なんて聞いたことがない。それは、旦那様も早苗さんも同じ。

でも、こうして見るとはっきりとした違いが存在してることを痛感させられる。

一方は日本を代表する企業の御曹司。
もう一方はただの雇われた者。

その差は埋まらない。
彼が私と親しくすることで、逆に私が彼と親しくすることで、穿った見方をする人は必ず出てくる。

ここからだと、あの屋上の窓は小さな光でしかない。
手をのばしたところで届く距離じゃない。

向こうからは私の姿なんて、きっと見えやしない。

それが、私たちの距離なんだ。

…遠いな。
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