彼女の涙を誰も知らない
一 彼女の涙を誰も知らない
1 コンビニ店員 朝井の考察
耳鳴りを覚えるほど聞きあきたメロディが鳴る。客足が少し遠のく20時半。今日も彼女が来た。コツコツコツコツ、ハイヒールの音がひびく。毎週金曜日、彼女は此処を訪れる。人の顔は基本覚えなくて、働き始めて1年近く経つのに常連か否かの区別も危うい僕だけど、彼女の顔ははっきりと覚えてる。腰までのベージュ色のロングヘアもすらりと伸びた足をさらけ出すミニスカートも特徴であるけれど、なにより彼女を印象づけるのは、整った綺麗な顔。長いまつげを纏った大きな目には濃いめの化粧が良く似合う。ハイヒールの音は一目散にいつも駄菓子コーナーへ向かう。彼女が買うものはいつも決まってる。人気キャラクターのチョコレートがふたつ、そしてパックのオレンジジュース、レモンティー、煙草。マルボロメンソール。