『俺様御曹司の悩殺プロポーズ』の文庫に入れられなかった番外編

今朝、玄関で別れた時は、いつもののほほんとした丸顔で元気そうではあったが……心配だった。

ただの風邪で病院に行くほどではなかったと、笑って報告してくれればいいのだが……。


忙しい中で時間は流れ、あっという間に夕方に。

二時間ほどの休憩時間が取れる予定であったが、急な打ち合わせが入ってそれも取れずに、もうすぐ次の収録が始まる時間だった。

社屋三階の八番スタジオの中には、『びっくり仰天、世界のマル秘スクープ!』と言う特番のセットが組まれていて、風原は司会席に座っていた。

隣には、今ドラマやCMで活躍中の若く美しい女優がいて、「風原さん、このV振りなんですけど……」と台本を手に彼に話しかけてから、華奢な首を傾げた。


「風原さん?」


もう一度呼びかけられて、彼はハッと我に返り、作り笑顔を女優に向ける。しまったと思っていた。

珍しくボンヤリしていた理由は、小春だ。

病院に寄った後、結果を知らせるようにメールしたのに、音沙汰ないからだ。

小春のことだから、うっかり忘れたということだろう。

妻の性質は理解しているつもりなので、それに腹を立てたりしないが、心配しているこっちの身にもなってほしいと不愉快ではあった。

それと共に、もしや大変な病気で報告に悩んでいるのではないかと、嫌な可能性まで考えてしまい、まさに収録が始まろうとしているのに集中できずにいるのだ。
< 22 / 30 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop