『俺様御曹司の悩殺プロポーズ』の文庫に入れられなかった番外編
今朝、玄関で別れた時は、いつもののほほんとした丸顔で元気そうではあったが……心配だった。
ただの風邪で病院に行くほどではなかったと、笑って報告してくれればいいのだが……。
忙しい中で時間は流れ、あっという間に夕方に。
二時間ほどの休憩時間が取れる予定であったが、急な打ち合わせが入ってそれも取れずに、もうすぐ次の収録が始まる時間だった。
社屋三階の八番スタジオの中には、『びっくり仰天、世界のマル秘スクープ!』と言う特番のセットが組まれていて、風原は司会席に座っていた。
隣には、今ドラマやCMで活躍中の若く美しい女優がいて、「風原さん、このV振りなんですけど……」と台本を手に彼に話しかけてから、華奢な首を傾げた。
「風原さん?」
もう一度呼びかけられて、彼はハッと我に返り、作り笑顔を女優に向ける。しまったと思っていた。
珍しくボンヤリしていた理由は、小春だ。
病院に寄った後、結果を知らせるようにメールしたのに、音沙汰ないからだ。
小春のことだから、うっかり忘れたということだろう。
妻の性質は理解しているつもりなので、それに腹を立てたりしないが、心配しているこっちの身にもなってほしいと不愉快ではあった。
それと共に、もしや大変な病気で報告に悩んでいるのではないかと、嫌な可能性まで考えてしまい、まさに収録が始まろうとしているのに集中できずにいるのだ。