『俺様御曹司の悩殺プロポーズ』の文庫に入れられなかった番外編
「すみません。VTRの振り方ですね。それなら……」
共演者の美人女優に謝ってから、気持ちをなんとか仕事に向けようとする。
小春は元気そうだったから大丈夫だと、自分に言い聞かせて……。
「それじゃ、始めまーす。よろしくお願いしまーす!」と土霧(どきり)という名のディレクターの声が響いて、いよいよ収録が始まった。
車載カメラが映した危機一髪の中国の事故映像や、ボリビアのウユニ塩湖の絶景、全身カレーに塗れて保護されたイギリスのカモメなど、VTRが次々と流され、その合間に出演者のコメントが挟まれる。
風原はコメントを求めたり、膨らませたりまとめたり、クイズ形式の質問を挟んだりと、与えられた司会の役目をそつなくこなしていく。
こういう司会の仕事は、今までにどれほどやってきたことか。
それは風原にとっては難しい仕事ではないので、やっぱりVTRの最中は気持ちが逸れて、小春のことを考えてしまっていた。
時刻は二十時近くなり、収録は順調に進んで、もうすぐ終わるという頃。
次のVTRを流して、コメントを入れてまとめた後は、締め括っておしまいだ。
早く帰りたいと、そればかり考える風原の目に、カメラの下にしゃがんで、スケッチブックを手に持つADの姿が目に入った。