『俺様御曹司の悩殺プロポーズ』の文庫に入れられなかった番外編
3分後、私は暮間さんの控え室のドア前にいた。
『なに怒らせてんだよ! すぐに謝ってこい!』
番組プロデューサーに怒鳴られて、慌てて走ってここに来たところだ。
最後の最後にやってしまった……。
よりによって暮間さんの名前を間違えるなんて、私ってダメすぎる。
痛恨の思いで小さくドアをノックすると、すぐにドアが内側に開いた。
開けてくれたのは暮間さんのマネージャーさん。
若い男性で気弱そうな印象の人。
彼は困った顔でおどおどしながら「どうぞ入ってください」と言った。
緊張で手のひらが汗ばんでいた。
深呼吸してから「失礼します」と中に足を踏み入れた。
暮間さんはソファーに座って足を組み、タバコをふかしていた。
ソファーの横で足を止め、私は深々と頭を下げた。
「あ、あの、先程はとんでもない言い間違いをしてしまい、大変申し訳ありませんでした!」
こんなことで許してもらえる気はしないけど、謝るより他に術は無い。
下げた頭を上げることもできずにいると、ソファーが軋む音がして彼女が立ち上がる気配がした。
ツヤツヤした高級パンプスが私の前に止まり、「顔を上げなさい」と言われる。
その言葉に幾らか驚いていた。
え? もしかして、もう早許して貰えるの?
その期待を含んだ予測は、ハズレだった。
上げた顔に煙草の煙を吹きかけられ、ゴホゴホと咳き込んだ。