寡黙な御曹司は密かに溺愛している
「遅くなってすみません」


聞き覚えのある声。
会いたくて、でも会うのが辛くて、電話も拒否し続けたあの人。


「えっ、なんで?」


思わず出てしまった声。急いで両手で口を覆ったけれど本当なら叫びたいくらい驚いてる。

なんで?なんで?
なんで、課長がここにいるの?


「ん?その反応、まさか話してなかったのか?慧」


「……話そうとはしたんですが……」



私のあまりの驚きように、課長のおじいさんでモモシロの現会長が、課長に声を掛けた。課長は少し気まずそう。


たしかに見覚えのある顔なわけだ。


現会長は私が入社するときの社長で、社長面接をしてもらったから。

とはいえ会長になられてからは、ほとんど表舞台に出てこられなかったから、すぐには気づけなかった。


それに課長が何度も私に電話をくれたこともきっと今日のお見合いの話をしたかったから。


それを私ってば、完全なる勘違い。
そして、更には電源まで切ってしまってた。、
本当にバカだな。


「そうか。では改めて自己紹介から始めよう。慧、ほらお前も座って」


会長に促されて、課長が座る。
一瞬、課長と目が合ったけど私からすぐに逸らした。

自分の勘違いが恥ずかしすぎて穴があったら入りたい。


それでもお見合いは両家が揃ったことで私の心情なんておかまいなしに始まった。
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