寡黙な御曹司は密かに溺愛している
「慧から春香さんが海老がお好きだと聞いたものでね、喜んでいただけて何よりだ。さあたくさん食べてください」
海老好きなこと覚えていてくれたんだ。
とはいえ、流石にこんな海老の懐石料理
食べたこともないし、何から手をつけていいのかもわからない。
「あ、ありがとうございます」
そう言うのが精一杯。
それなのに、会長は私が手をつけるまで
手をつけそうにない。
おじいさんもそうだ。目線で私を急かす。
どうしようと困っていると、課長がすっと手を合わせ、「いただきます」と料理に手をつけた。
「慧、レディーファーストだろう」
「そんな風にじっと待たれていたら、食べたくても食べられませんよ。ほら、俺が先に口をつけたからお前も遠慮せずに食え。おじいさんも会長もどうぞ」
私が料理に口をつけるのを待っていた会長が少しムッとするも一言、そう言ってそのまま課長は箸を勧める。
「それもそうか。じゃあみんなで食べましょうか。春香さんもどうぞ」
課長の言葉は本当にすごい。
どうしていいかわからず、戸惑う私を
救ってくれただけじゃなくて、みんなが料理を食べやすいようにしてくれた。