王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~


「……君、だったかな。……シャーリーン」


シャーリーンは驚きで息が止まりそうだった。憧れの王太子が、いつもは興味なさそうに視線を合わせない彼が、じっと自分を見つめているのだから。


「ぎ、ギルバート様?」

「シャーリーン殿。俺は目がどうかしていたのかな。君がこんなに美しい人だなんて、今初めて気付いたよ」

「嬉しいです! ギルバート様、もう少し紅茶をお飲みくださいませ。きっと頭がすっきりしますわ」


ギルバートはまだぼやけたままの頭を振って、もう一口紅茶を飲む。
するとますます、目の前の令嬢が魅力的にみえてくるではないか。

ギルバートは胸のときめきを感じた。恋の高揚感に幸せな気分になってくる。


「散歩でもしようか。君の美しさに負けない庭園の花を見に行こう」

「ええ。ぜひ!」


立ち上がったギルバートは腕を出し、シャーリーンをエスコートしてくれる。
あまりに嬉しくて、シャーリーンはそれが薬の効果だということを忘れてしまいそうだった。

ふたり、連れだって階段を下りながら、シャーリーンは先ほどエマが追ってきたことを思いだす。

彼女から惚れ薬の存在がバレては大変だ。
シャーリーンはギルバートを少し待たせると、キンバリー伯爵の従者・チャンドラーを呼び出した。


「チャンドラー」

「はい?」

「お父様に、あの薬屋を城から追い出すように言ってちょうだい。変な薬を作っているわ」

「はあ。しかし、彼女の薬はなかなかの人気で」

「いいから、これは私のお嫁入りにも関わることだと強く言って? 頼むわよ」


そして浮かれたステップで王子のもとに戻る。


「……俺は誰かすごく好きな人がいて、その人を探していたような気がするんだけれど……」


美しい庭園を見ながら、ぽつりとギルバートは言う。


「それは君だったのかも知れないな」


はにかむように笑われて、シャーリーンの胸はもう爆発寸前だ。


「ええ、きっとそうですわ。だって私も、王子様をずっと待っていたんですもの」


これ以上ないほどの幸福に、シャーリーンは心を震わせていた。


< 109 / 220 >

この作品をシェア

pagetop