王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「……君、だったかな。……シャーリーン」
シャーリーンは驚きで息が止まりそうだった。憧れの王太子が、いつもは興味なさそうに視線を合わせない彼が、じっと自分を見つめているのだから。
「ぎ、ギルバート様?」
「シャーリーン殿。俺は目がどうかしていたのかな。君がこんなに美しい人だなんて、今初めて気付いたよ」
「嬉しいです! ギルバート様、もう少し紅茶をお飲みくださいませ。きっと頭がすっきりしますわ」
ギルバートはまだぼやけたままの頭を振って、もう一口紅茶を飲む。
するとますます、目の前の令嬢が魅力的にみえてくるではないか。
ギルバートは胸のときめきを感じた。恋の高揚感に幸せな気分になってくる。
「散歩でもしようか。君の美しさに負けない庭園の花を見に行こう」
「ええ。ぜひ!」
立ち上がったギルバートは腕を出し、シャーリーンをエスコートしてくれる。
あまりに嬉しくて、シャーリーンはそれが薬の効果だということを忘れてしまいそうだった。
ふたり、連れだって階段を下りながら、シャーリーンは先ほどエマが追ってきたことを思いだす。
彼女から惚れ薬の存在がバレては大変だ。
シャーリーンはギルバートを少し待たせると、キンバリー伯爵の従者・チャンドラーを呼び出した。
「チャンドラー」
「はい?」
「お父様に、あの薬屋を城から追い出すように言ってちょうだい。変な薬を作っているわ」
「はあ。しかし、彼女の薬はなかなかの人気で」
「いいから、これは私のお嫁入りにも関わることだと強く言って? 頼むわよ」
そして浮かれたステップで王子のもとに戻る。
「……俺は誰かすごく好きな人がいて、その人を探していたような気がするんだけれど……」
美しい庭園を見ながら、ぽつりとギルバートは言う。
「それは君だったのかも知れないな」
はにかむように笑われて、シャーリーンの胸はもう爆発寸前だ。
「ええ、きっとそうですわ。だって私も、王子様をずっと待っていたんですもの」
これ以上ないほどの幸福に、シャーリーンは心を震わせていた。