王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~

早足で廊下を駆け抜けて、城の前庭で待つひとりの騎士服の男のもとへと向かった。


「セオドア、待たせたな」

「殿下。本当に抜けてこられるとは。……全く仕方ありませんね」


とはいえセオドアの顔には笑みが浮かんでいた。

セオドアは騎士団の第二分隊の隊長だ。
王城の警備を担当する第一分隊と違って、第二分隊は遠征がある。セオドアは昨日、北の駐屯地から戻って来たばかりで、今日は報告だけの業務だったため午後からは休みなのだ。

ギルバートより五歳年上で、騎士団長だった父親に連れられて昔から城に出入りしていたので、幼い頃のギルバートにとって、恰好の遊び相手だった。簡単に言えば、ふたりは幼馴染という間柄になる。
大柄で、気の良い力持ちのセオドアは、兄のいないギルバートにとって頼れる兄貴分だった。


「折角セオドアが戻って来たんだ。ちょっと抜け出して遊びに行くくらいいいだろう」

「別に焦らなくても、しばらくは遠征の予定はありませんよ。それより、王子は妃選びに忙しいのではないんですか」

「妃ね。……正直興味がないんだよな。着飾って、駆け引きを繰り返す女たちのどこがいいのだか、俺にはさっぱり分からない」

「美しい女性をわがものにしたいとは思わないんですか?」

「セオドアは思うのか?」

「俺ですか? そうですね。そりゃ男ですから、女性に興味はありますよ」

「そうか。では俺がおかしいのかも知れないな。女性の相手は面倒くさい。やれドレスの仕立てがどうだの」

「つまり殿下はまだまだお子様だということですね」

「なんだと?」


ギルバートはセオドアを睨んだが、相手が昔からの兄貴分とあっては、効き目はほとんどない。
セオドアはクスクス笑いながら「行きましょう。夕方までには帰ってこないと国王様に叱られます」と歩き出した。
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