王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~

慌てて部屋を出ようとしたが、廊下には従僕がふたり、見張りとして立っていた。


「エマ殿。キンバリー伯爵より、あなたが出ていかないよう見張るように言われております」

「どういうこと?」

「あなたが城にいる資格はもうありません。今ここにいられるのは、この場所の撤収のためだけです。それ以外の行動は禁ずるよう言われております」

「トイレよ。それならいいでしょ?」

「ではひとり前で待たせてもらいます」


なんとか隙を見て逃げ出そうとしたけれど、それは無理だった。
エマの行動に不審なものを感じたのか、その後は、従僕がひとり手伝いと称して中に入って来て、強引に帰り支度をさせられてしまう。


「せめて、お世話になった方に挨拶をさせてください」

「それは出来かねます。誰もあなたに近づけるなと言われております」

「どうして?」


掴みかかるエマに、従僕は皮肉気な笑みを見せた。


「今までがおかしかったのですよ。庶民であるあなたが、貴族の方々と対等に話ができていたことがね。以前に戻っただけです。なにもおかしなことなどありませんよ」

そこに、エマに同情する空気はなかった。むしろ、嘲りの色のほうが濃い。


「……わかりました」


ここを突破するのは無理なのだと、エマは咄嗟に悟った。

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