王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
午後の早い時間にエマは馬車に乗せられ、城を後にした。セオドアにもヴァレリアにもお別れひとつできなかったことが心残りだ。
(ギル……。ごめんなさい、私の薬のせいで)
なにより心配だったのは、ギルバートの体のことだ。
今の様子を知りたいけれど、近づくこともできない。これがエマとギルバートの間の本来の距離だと思えば、悲しくなってくる。
今になって、あんなにも会えていた時間が特別なものだったのだと知る。
家に戻ったエマを、両親とジュリアは競うように抱き締めた。家族も今日急にエマが戻ることを聞かされたらしく、母親に至ってはかなり腹を立てていた。
「勝手に城に呼んでおいて、急に戻すなんて。こっちはモノじゃないのよ。キンバリー伯爵の気まぐれも困ったものだわ」
「そうよ。酷いわ。……でも帰って来てくれて嬉しい、姉さん」
温かい家族の愛情に包まれてほっとしつつ、エマは急ぎで手紙をしたためた。
どうしても、シャーリーンに伝えなければならない。薬を使い続けることは、王子の命を危険にさらすということを。
「バーム、お願い。これをキンバリー伯爵邸に届けて」
「うん。いいよ」
くちばしで器用に手紙を加え、バームは言いつけ通りに伯爵邸の玄関に手紙を落としてきた。
しかし、使用人からその手紙を受け取ったシャーリーンは、宛先人にエマの名前を見ると、中身を見ることもなく捨ててしまったのだ。