王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「はいはい。……これはギルバート王子殿下。どうなさいました」
「どうにも頭がぼうっとしてな。なにかいい薬はないだろうか」
「お疲れなんですかね。ああどうぞ。入って椅子におかけください。心音を聞かせていただけますか?」
医者は一通りの診察をし、「特に異常はありませんな」という。
「そうか。君が言うなら確かなんだろうな」
「もちろんでございます。さすがは王太子殿下。私の力を認めてくださるんですな。他の奴らと言ったら、薬屋がなくなったとピーピーうるさいくらいで」
「薬屋?」
「ええ。あのインチキ薬屋。さっさと追い出されてせいせいしましたとも」
ギルバートの記憶にチクリと引っかかるものがあった。
そうだ。薬屋があった。よく効くと評判だったはずだ。なぜそのことをすっかり忘れてしまったのだろう。
「どうして……無くなったんだ?」
「さあ。国王様が追い出したとのうわさも聞いております。私と違って、庶民の行う怪しげな民間療法ですからな。国王様の判断は正しいと思います」
「……そうか。わかった。邪魔をしたな」
ギルバートは医師の部屋を出て、そのまま裏口から外へ出た。
騎士団が、ふたりずつ組んで剣の稽古をしている。セオドアは……と探すと、鎧もつけずに指示だけを出していた。ギルバートは駆け寄っていった。
「セオドアはやらないのか。珍しい」
「これは殿下。あいにくまだ怪我が治っておりませんで」
「怪我……?」
「ヴァレリアにも無理はしないよう泣かれましてね」
「ヴァレリア……?」
ギルバートの反応の鈍さに、セオドアは眉根を寄せる。