王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~



「さあ、こちらですわ」


シャーリーンは逃がさないとばかりにギルバートの腕に自らの腕を絡ませる。
庭を迂回する形で正面の扉まで回ったのだが、ギルバートはどこかぼうっとしたように木々を見上げている。


「マグパイ」

「あの鳥がどうかしまして?」

「いや? なんか気になるだけだ」

「あんな鳥、どこにでもいますわ。それより早くいらして。私、今日もお茶を用意しましたの」


嬉しそうに笑うシャーリーンに、ギルバートは顔を綻ばせる。


「君はお茶の話をしているときは生き生きとしているな。タイムやカモミール。ローズヒップだっけ。色々教えてくれたよな」


ぼんやりとした記憶だが、楽しそうにお茶を入れてくれたのを覚えている。その姿を、可愛らしいと思ったことも。
喜ばせるつもりで言ったのに、シャーリーンは顔をこわばらせていた。


「どうした? シャーリーン」

「い、いえ。なんでもありませんわ。こちらです」


シャーリーンは客室の一間を借り、お茶席を作っていた。城の調理人に頼んでお菓子を焼いておいてもらったのだ。あとは紅茶に惚れ薬を一滴垂らす。

シャーリーンは薬の効果が切れるのが怖かった。
正式に婚約するまで、毎日王子とお茶の時間を持って、飲ませ続けるつもりだ。
正気に戻ってしまったら、もうこんな優しい瞳は向けてくれないかもしれない。
考えれば考えるほど、シャーリーンは薬が手放せなくなっていく。

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