王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「ところでシャーリーン。婚約のことなんだが」
「ええ。私は一刻も早くお披露目したいです」
「正式なものはもう少し時間がかかるが、とりあえずは国の重鎮たちには明日の夜会で発表するつもりだ」
「嬉しい!」
ギルバートがお茶を飲んだのを確認して、シャーリーンはホッとして彼にすり寄る。彼はいとおしそうに彼女の黒褐色の髪を撫で、額にキスをして微笑んだ。
「ところで、シャーリーン。前みたいな髪形はしないのかい?」
「前? 私はずっとこのままですけど」
「髪をひとつに結っていただろう。あの髪形が似合っていたと思うんだが……」
「それは……」
シャーリーンはハッとする。髪をひとつに結っていたのはエマだ。
ギルバートは無意識に、エマとシャーリーンを重ねているのだと気づいて、唇をかみしめる。
「……あの髪型は頭が痛くなりますの。それよりギルバート様、お茶のおかわりはいかがですか?」
「ああ、頂こう」
シャーリーンはもう一滴惚れ薬を落とす。
惚れ薬なんて甘ったるいものじゃなくて、媚薬を作ってもらえばよかった。
既成事実を作ってしまえば、きっと安心できただろう。
なのに王子は婚約前というのを気にしてか、シャーリーンに迫ってくることはない。
「そうそう。王城に君の部屋を用意しようと思うんだ。母上に支度を頼んでいる。数日中には整うと思うよ」
「本当ですか? 楽しみですわ。私、早くギルバート様の妻になりたいです」
「はは。せっかちだな。そんなことを言う子だったっけ」
彼の口から出る“愛しい人”と自分との差異が、シャーリーンには気になる。
彼の目に映る自分は、本当にシャーリーン=キンバリーなのだろうか。
まるでエマという外枠の中に無理矢理閉じ込められているような感覚がして、シャーリーンは恐怖すら感じていた。