王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
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騎士団の所有する馬を二頭借り受け、ふたりは城下町を通り抜け、近くを野駆けした。
禁漁区に入るには許可を取らなければならないので、街と街をつなぐ街道を駆け抜けるだけだ。
それでも、王城での窮屈な時間に比べれば、爽快だとギルバートは思う。
大きく深呼吸をしながら空を見上げると、黒っぽい鳥がまっすぐに飛んでいくのが見えた。
王家の長男として生まれた以上、自分の血族をつないでいくのが大切なのはわかっている。しかしながら、あそこまで女性との付き合いを強要されると、かえってやる気がなくなってしまう。
「旅でも出たいなぁ」
「お戯れを」
「セオドアはいいな。騎士団で自分の力を試すことができる。俺は、……このまま妃を貰って父上の補佐をしながら、国のために生きねばならない。二十歳を過ぎれば、もうわがままも言っていられないだろうな」
それが、他の人間からは羨まれる立場なのは分かっている。弟たちだって、二十歳を過ぎれば別の爵位をいただき、自力で家を切り盛りしていかなければならないのだ。
王家の領地を継ぎ、国王となれるのは長男である自分だけ。だからギルバートは王城では不満を漏らすことも弱音を吐くこともできなかった。
セオドアとこうして城の外に出た時だけ、ほんの少しの本音を吐き出すことができる。王太子であることを忘れて、自由になれるのだ。