王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「シャーリーン殿と婚約するらしい。それに関しては思うところもあるが、まあ王家の今後を考えてのことだと納得できないわけじゃない。……ただ、少し様子がおかしいんだ。ボケっとしていて、なんだか物忘れがひどくなった気がする」
「物忘れ……ですか」
シャーリーンが惚れ薬を使ったのは間違いなさそうだ。ぼうっとするのは記憶が混乱するからだろう。
一度だけなら大事にはならない。シャーリーンが手紙を読んでくれたかどうかも分からず、エマは心配することしかできなかった。
黙ってしまったエマを見て、セオドアは気まずそうに頭をかいた。
「まあ、エマが気にすることじゃないよ。ギルも収まるところに収まったということだ。エマも……どうか、ギルのことは忘れて幸せになってほしい」
「……セオドアさま」
「きっとギルもそう願っている」
善良そうな顔に、少しだけ気まずそうな笑みを乗せてセオドアは言う。
エマは微笑み返したが胸の奥はずきずきと痛んだままだ。
国民の真意を突き付けられたような気がした。
ギルバートとシャーリーンの結婚は、国民として喜ばしいことだ。由緒正しい血統の妻を貰い、子をつないでいくのは王家に生まれたものの務めなのだから。
セオドアもなんだかんだとそれを認めている。エマとギルバートでは結ばれる運命にないことを。
「そう、……ですね」
エマは頷き、涙を見せないようにこらえるのに必死だった。