王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~


セオドアが帰った後、エマは店番をジュリアに任せ、母親のベティが薬を作っている工房へと入った。


「母さん、実はあの、魔法薬のレシピのことなんだけど」

「うん? なあに」

「あそこに、惚れ薬の作り方が書いてあったでしょ。アレって……」

「ああ、惚れ薬ね。アレって私のオリジナルレシピなのよねー」

「えっ」


ベティは禁じられている薬という意識がないのか、あっけらかんとしている。


「え、大丈夫なの? それ」

「エマ、まさか作ったの?」

「え、あの、……その」

「やだー、年頃だものね。好きな子でもできたの?」


逆に問いかけられ、まごまごと言い濁していると、ベティはカラカラと笑った。流石自分でそんなレシピを考えるだけあって、ベティには咎める様子もない。


「まあ、座りなさいよ」


自分の隣の椅子を引き、エマを座らせる。そして、母親らしい優しい顔で笑った。


「戻って来てからなんとなく元気がないものね。お城で好きな人でもできたんじゃないかと思っていたのよ。あの惚れ薬は、暗示の魔法効果があるの。暗示って知ってる?」


エマは首を振る。


「クラリス様が得意な魔法なんだけどね。かかった人間は嘘の記憶を植え付けられるわけ。惚れ薬の場合は、目の前の人とかつて好きだった人を結びつけるの。だから今までに恋をしたことがない人には効かないし、薬が効いている間は、記憶があやふやになってぼうっとする。その間に、相手の心を自分のものにできるかは本人次第ってわけ」

「……そうよね。薬って、永遠に効くわけじゃないもんね」

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