王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「そうか。……すごく怒られるだろうなぁ。人の心を変えるような魔法は使うなって言ってたのに」
もちろん、ギルバートを救えるのならばどんな叱責でも受けるつもりではいるが、気が重いことは間違いない。
けれどここでもベティはあっけらかんとしている。
「大丈夫よ。クラリス様は本当ならそんなこと言える立場じゃないもの。昔は、彼女が先頭に立って暗示魔法をかけていたくらいなんだから」
「そうなの?」
「あなたが生まれる前、私たち、辺境地のノーベリー伯爵邸に隠れて住んでいたの。その頃はとにかく魔女狩りを恐れていてね。紛れ込んでくる人間に秘密を知られるたびに、暗示をかけて魔法のことを忘れさせていたの」
「でもじゃあどうして今は禁止されているの?」
「魔女の力を知っても、恐れない人たちが現れたからよ。デイモン様や、ノーベリー伯爵の奥方のドロシア様。魔女と愛し合って共に生きようとする人たちがいたから」
「え? デイモン様も?」
デイモンはクラリスの夫で、メイスン商会を束ねる商人だ。
魔女を支援しているデイモンが魔力を持たない人間だとは、エマは考えもしなかった。
「そうよ。デイモン様はクラリス様にぞっこんで、初めて私たちの仲間になってくれた人間。次がドロシア様ね。ドロシア様が発案して、デイモン様が商売を始めたのよ。人間と共存して、自分たちで生きていくためにって。ほら、引きこもっていたら出会いも無いじゃない? あの時、一番若い人間がチェスターで十八……だったかな。このままじゃ子孫も出来ず滅びるしかないっていうタイミングだったもの。で、人の中に入る上で、いろいろ決まりを決めたのよ。人の心を変えてしまう魔法を禁止にしたのはその時からね」
魔女を好きになってくれる人もいる。共に生きてくれる人も。
「じゃあ、私たち、普通の人間と恋をしてもいいの?」