王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「……ギルバート様は、こうして身分の低い私にも気さくに声をかけてくださる。領民の声に耳を傾ける、いい国王になりますよ」
「何言ってんだ。俺が国王になるころには、お前は重臣になってるよ。それより、この恰好のときは様を付けるなって言ってるだろ。敬語もいらない。お前と遊びに出ているときの俺は、“ギル”だ」
それはあと少ししか許されない息抜きだ。だからこそ、今は王子であることを思いだしたくなかった。
ギルバートに強要され、じゃあとセオドアは口調を改める。
「分かった分かった。城に戻るまではお前は“ギル”だったな。じゃあ行こう、ギル。今日は好きに走ろう」
セオドアは、ギルバートが貴族間の駆け引きに疲れていることを感じ取り、その後は彼の気の向くままに馬を走らせた。
そのときだ。ギルバートの乗っていた馬の前を、野ウサギが横切ったのだ。馬は驚いて急に動きを止め、前足を上げていなないた。
「うわっ」
「危ない、ギル」
ギルバートはバランスを崩し、馬から滑り落ちる。
セオドアもすぐに馬を下りたが、彼を受け止めるまでには至らなかった。地面に崩れ落ちたギルバートは、上手に体を丸めたものの、右肩を強打していた。
「大丈夫かっ」
「いてて。ああでも大丈夫。頭は打っていない」
「それにしても……見せてみろ」
袖をまくり右腕を確認すると、肩から二の腕にかけてが赤く腫れている。セオドアは軽く押したりしてギルバートの反応を確認する。