王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「魔法って完璧じゃないの。昔、私がかけた暗示を、なんの魔法も使わずに自らの力で解いた人間もいたわ」
「クラリス様の魔法を?」
クラリスは大魔女と言われるだけあって、強い魔力の持ち主だ。人間に、彼女の魔法が解けるなんてありえないとエマは思う。
「ドロシア様……ノーベリー伯爵の奥方様よ。彼女と会って私は考えを改めたわ。人間を侮ることはないんだって。人の意思の力、気持ちの力に比べたら、魔法なんて大したことはない。だから私たちの力だって、ただのひとつの技術のようなものなんだと。人の中に戻ることも、恐れることはないんだって」
エマが黙っていると、クラリスは目に少しだけしわを寄せて笑う。
「ねぇ、エマ。……魔法を解くのはいつだって、ほんの少しの魔力と、真実の愛よ」
「真実の愛……?」
「そうよ。救いたい人は、あなたにとってどんな人? のど飴に魔力を込めて舐めさせれば、一定の効果は期待できる。だけど、もしその相手があなたのことを想ってくれているなら、あなた自身が呼びかけることが一番の特効薬なのよ」
「私が……?」
エマはワックス紙に包まれたのど飴を握りしめる。
国のことを考えれば、ギルバートはシャーリーンを娶るのが望ましい。
だけどギルを救うには……
(私、好きって言ってもいいの……?)
城にいたとき、エマは真剣に思いを伝えてくれるギルバートに扉越しに言った。
『私が恋をしたのは、騎士様の“ギル”です。……王太子様じゃない。……あなたが王太子様だなんて、知りたくなかった』
あんな冷たい言い方をしたかったわけじゃない。本当は、気どらず自然体のままのあなたを、王太子だなんて肩書は関係なく好きになったんだと、そう伝えたかった。