王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「……ギル」
エマがぎゅっとのど飴を握りしめた時、突然、店の扉が開かれた。
「エマ! エマはいるか?」
入って来たのは騎士服姿のセオドアだ。酷く焦った様子で、倒れんばかりに息を荒くしている。
「セオドア様?」
「エマ。頼みがある。ギルを助けてくれ」
「ギルを? どういうこと? セオドア様、ギルはどうしたの?」
「昨晩、倒れたんだ。それから目を覚まさない。王子の弟君の話によると、医者に見せたが何が原因だかさっぱり分からないと言われたんだそうだ。俺は君ならなんとかできるんじゃないかと思って……」
「倒れた?」
エマは目の前が真っ暗になったような気がした。
遅かったのだ。どうしてもっと早く、無理やりでもシャーリーンに会いに行かなかったのか。
こうなる可能性を知っていて、どうして対処できなかった。
「私のせいよ……!」
自己嫌悪で頭を抱えるエマにバームが呼びかける。
「違うよ、エマ。泣くな」
「だって。あの薬は私が作ったのよ? 私が……」
一度でも、望んだからだ。
この薬があれば彼が振り向いてくれるのではないかなんて、甘やかな夢を見たから。
泣き崩れるエマにの耳に、机をうち付ける強い音が響く。
みんなが怯えたように身を固くして、音の方向を見る。音の主は、冷静な調子を崩さぬデイモンだ。
「エマ、泣いている場合じゃないだろう。自分に出来ることをするんだ」
「私に?」
エマは涙を拭き、セオドアに詰め寄る。