王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~


「セオドア様、彼を私に診させてもらえますか?」

「それは無理だ。今の君には王城に上がる資格がないだろう? 何かいい薬はないかと思って聞きにきたんだ」

「でも症状が分からないと……」


惚れ薬をどのくらいの量使った、それだけでも分かればいいのだが。


「あ、これを」


先ほどクラリスに言われて魔力を込めたのど飴だ。


「これを渡してください。少しでも良くなればいいんですけど」

「ああ。ありがとう。でも、食べ物は目を覚まさないとどうしようもないな」

「そうですよね。……気付け薬なら少しあるんです。でも、これも量を間違えると大変なことになるので」

「だよな。俺の身分では、君を王城に呼びたくても許可が下りないし……」


許可を得たものでなければ、城の中に入れない。
これが自分とギルの距離だと、エマは思い知らされる。

だけどこんなのど飴に、ギルの安否を託したくはない。

医者に助けられるわけがないのだ。
ギルの症状は魔法効果によるもの。曲げられた気持ちに、気持ちが反発してせめぎ合った結果がこれだ。
彼の心に呼びかけて、彼が自分自身を取り戻さなければ目覚めはあり得ない。


「……セオドア様。一生のお願いです」

「え?」


もし魔女だとバレれば、自分だけじゃない、父も母もジュリアも、ここにはいられなくなるだろう。
下手をすればクラリスやデイモンにも迷惑をかける。

だけど、このままここでじっと祈るだけよりずっといい。
それが家族を巻き添えにすることになっても。セオドアにも、ヴァレリアにも迷惑をかけたとしても。

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