王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
エマは工房に戻り、小さな鞄に使えそうな薬を詰め込む。
そして様子をうかがう両親に頭を下げた。
「父さん、母さん、もし魔女だってことがバレてここにいられなくなったらごめんなさい」
ジョンとベティは顔を見合わせ、すぐに笑う。
「いいさ。お前のわがままなんて一生に一度くらいしかない」
「私の腕前があればどこででも暮らせるわよ」
「ありがとう」
エマはこみあげてくるものを飲み込み、一応変装も兼ねてフードを着込んで、店の外に出る。
セオドアは既に外に出て、すぐに出発できるよう用意していてくれた。
「さあ、乗って。門番には君の顔を知ったものもいるだろう。なるべく顔は伏せておいて」
「はい。ありがとうございます」
「いくぞ」
セオドアの前に乗せてもらい、馬は一路城を目指す。
「セオドア様、……ありがとうございます」
「なんだよ。さっきも聞いたよ」
「私を友人だと言ってくださって……」
セオドアは少し黙り、それからこともなげに続けた。
「本当のことを言っただけなのに礼を言われるのはおかしな話だな」
「だって本当なら私にとっては雲の上のひとです」
「君は友人だよ。ヴァレリアもそう思ってる」
続けられた言葉に、エマの心はほんのり温かくなった。