王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~


 城門ではやはり、両側に陣取る衛兵から不審なまなざしを向けられた。


「薬室のエマ殿ですよね。薬室は既に撤退したと伺っております。国王様からもキンバリー伯爵からも城内には通さないようにと」

「俺が個人的に治療を頼んでいる。責任は俺のほうで持つから入城させてくれないか」

「セオドア様がですか? ああ、お怪我されたという話ですもんね」

「正直、医師の治療より効くんだ。そんなことを言うとまた医師に叱られるから内緒にしてくれないか」


騎士団第二分団長というセオドアの肩書は、それなりに物を言うようだ。
門番はしぶしぶといった様子だったが、「騎士団詰め所だけでお願いしますよ」と念を押し、通してくれた。

その後は、セオドアの後について下を向いているだけで、特に咎めを受けることはなく、二階のヴァレリアの部屋までたどり着く。

セオドアとヴァレリアの間がどのように進展しているのか、エマは詳しく知らないが、侍女は味方になっているようで、セオドアの姿を見るとすぐに中に通してくれた。エマはセオドアの背中に隠れた状態で、ヴァレリアの春の陽だまりを思わせるような柔らかな声を聞いた。


「まあ……どうしたの?、セオドア」

「ヴァレリア、……頼みがあるんだ。実は」


セオドアに急に引っ張られ、エマはヴァレリアと対面した。


「あの、ご無沙汰してま……」


慌てて挨拶しようとしたけれど、エマの声は抱き付いてきたヴァレリアによってかき消される。

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