王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
ヴァレリアに言われて、エマは改めて自分がしようとしていることを思いなおす。
病気で寝ている王太子の寝室に忍び込むのだ。衛兵に捕まっても仕方のないようなことをしている。
しかも、セオドアやヴァレリアを巻き込んで、だ。
「ヴァレリア様、巻き込んでごめんなさい。侍女様も」
「いいのよ。私はあなたの力になりたいの。この子もそうよ」
ヴァレリアの侍女も笑顔を見せる。薬を買いに来てくれていた人で見覚えがある。名前はマレーネというのだと教えてくれた。
「グリーンリーフの薬がなくなって、私もとっても困っております。そのくらい、よく効くお薬ですわ。あなたならきっと王太子様を目覚めさせることができますとも」
エマは頷いた。なんとしてでもギルバートを目覚めさせるのだ。
そうすればヴァレリアたちが咎められたとしてもきっと彼が助けてくれる。自分は罰を食らったとしても、彼女たちだけは守りたかった。
「ふたりだけで行かせられない。俺も行くよ」
こともなげに言うのはセオドアだ。ヴァレリアは困ったように笑った。
「あなたには許可が下りないでしょう?」
「騎士団員には騎士団員のやり方がある」
「え?」
「緊急事態が起きれば、呼ばれるのが騎士団ってもんだろ」
そう言うと、セオドアはにやりと笑う。
「マレーネ殿、エマのふりをして俺についてきてください。まずは俺が疑われないよう、一度階下に降りることにしましょう」