王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~


準備が整ったエマとヴァレリアは三階への階段へと向かう。
階段の両脇に控えている衛兵はヴァレリアの姿を見ると過敏に反応し、そろって頭を下げた。


「王妃様へのご機嫌伺いよ。通ってもよろしいかしら?」

「はっ、どうぞ」


衛兵は綺麗に腰を二つに折って礼をする。ヴァレリアとエマは悠々とそこを通ることができた。

(凄い。こんなに華奢なヴァレリア様に屈強な衛兵さんたちがかしこまってる)

おどおどしていることの多いヴァレリアだが、やはり良家のお嬢様なのだ。
衛兵に対してはそこまで物おじもせず、威厳さえ感じさせる。

これが身分というものかと、エマは納得した。
平民の自分にはない、生まれながらに人を圧倒する気品。それは、個々の性格にかかわらず存在しているものなんだろう。

エマにとっては未知の領域だ。覚悟してきたとはいえ緊張して手汗が出てくる。顔を伏せたまま、ヴァレリアとの距離を一段以上空けないように気を付けながらついていく。

途中階段に躓きそうになりながらも着いた三階はそれまでと趣が違っていた。
廊下に飾られる肖像画は家族のものが多く、壁にはタペストリーが飾られ、寒さ対策なのか、廊下にも赤地のカーペットが敷かれている。


「こっちよ」


ヴァレリアは迷いなく廊下を右手に向かって進んでいく。やがて、ひとつの扉の前に衛兵がふたり立っているのが見えた。

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