王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「ごきげんよう」
「これは、ヴァレリア様。ここから先は王族の私室です。どちらへ御用で?」
「王妃様へご機嫌伺いです。王太子様は? 倒れたとお聞きしましたが大丈夫なのですか?」
「まだ目覚めないご様子です」
「そう。……見張り、頑張ってくださいませ」
ヴァレリアは心配そうにため息をつきつつも、ねぎらいの笑顔を見せた。衛兵たちは一気に顔を綻ばせ、背筋を伸ばす。そして、エマに目配せしたかと思うと、二メートルほど先に進んでからおもむろに倒れこんだ。
「きゃあっ、ヴァレリア様っ」
エマも打ち合わせ通りパニックになったふりをする。すると衛兵の一人が、慌てて近づいてきた。
「大丈夫ですか?」
「どうしましょう。お嬢様が……。衛兵様、お医者様はいませんか?」
「中におります。おい、医師殿にちょっとお願いしよう」
衛兵のもう一人が頷き、ギルバートの部屋の扉を開ける。
呼ばれた医師が慌てて部屋から出てくて、「これはヴァレリア様」と駆け寄ってきた。エマの顔は見知っているずだが、侍女など、彼らには空気のような存在なのだろう。全く気付いた様子は見られない。
エマは素早くあたりを見回す。
ヴァレリアの傍に医師と衛兵がひとり。もうひとりの衛兵は、心配そうにこちらを伺っていて、扉から一メートルは離れている。
(……今だ!)
みんなの意識がヴァレリアに向かっている間に、エマは衛兵の脇をすり抜け、部屋の中へと飛び込んで鍵を閉めた。後ろ手に扉を抑え、飛び出しそうな心臓を押さえる。