王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「なっ、侍女殿? 何事ですか。開けてください。……開けろっ」
扉の向こうからは怒号がし、振動が扉を揺らす。けれどとりあえずは鍵も閉められたので少し時間が稼げるだろう。ふうと息を吐き出し、改めて顔を上げると、中にはなんと、ぎょっとした顔でこちらを向くシャーリーンがいた。
「な、なによ、あなた急に……あなた……エマ? どうやってここに」
エマは彼女を見た途端に頭が真っ白になった。お腹の底から沸き上がるのは怒りだ。人の話を聞かず、薬を毒としてしまったシャーリーン。それは、薬屋として一番許せない行為だった。
「シャーリーン様。……ギルに惚れ薬を飲ませましたね? 一体どれだけ飲ませたんですか? 薬は多く与えれば毒になります。彼が眠りについてしまったのはそのせいですよ?」
シャーリーンは一瞬うろたえ、しかし、ムッとしたように反論を始めた。
「だって。……だって、仕方ないじゃない。婚約が整ったら私だってやめるつもりだったわ」
「どのくらい与えたんですか。私は彼を目覚めさせるために来たんです。早く教えてください」
「どれって……このくらいよ」
シャーリーンがかざした瓶の中身は、半分ほどになっていた。
「……こんなに?」
「あなただって悪いのよ? この薬を作ったのはあなたなんだから」
この期に及んで人のせいにするシャーリーンにエマは呆れ、頭の一部がむしろ冷えた。
(こんな人に、ギルは渡せない。絶対に渡さない……!)
「分かってます。だから責任を取りに来たんです」
エマはつかつかとベッドに近寄り、青い顔で眠るギルバートを見つめた。
まだ一週間ほどしか経っていないのにひどく懐かしくて、涙が出そうになる。
「ギル、私よ、エマよ」
呼びかけに、瞼が少しだけ動く。しかし、それだけだ。
エマはまず気付け薬を彼の鼻に嗅がせる。少しだけ反応を示したが、今一歩効き目は弱い。