王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
そのうちに廊下からは別の声がした。
「何事だ。悲鳴が上がったので来てみたのだが」
「これはセオドア様!」
「状況を教えてくれ」
セオドアの声だ。そ知らぬふりで上がって来てくれたおかげで、衛兵は一から説明を始めたようだ。
なるほど、彼の言っていた騎士団ならではの方法とは、緊急事態を受け、どさくさに紛れて上がってくることということだったらしい。
説明の手間分、時間が稼げるのはありがたかった。
「状況は分かった。とにかく、君たちはヴァレリア様を別室へ連れていくんだ。医師殿も一緒に」
しかもセオドアは場を仕切り始めた。通常衛兵が所属する王城警備隊と騎士団は別の扱いで、彼の指示を受け入れる必要はないのだが、場を仕切るのがうまいセオドアにみんな巧みに誘導されている。
「私はセオドア様のサポートに入ります!」
しかし一人は追い払えたが、もう一人はそんなことを言い出した。
ヴァレリアを運んだもうひとりも、すぐに応援を呼んでくるだろう。依然として時間はない。
「そうだ。セオドア様、続き間から入りましょう」
衛兵の提案に、セオドアも断り切れなかったのか続き間から音がし始めた。
エマは慌てる。
部屋の中にある扉の鍵は施錠していない。続き間から入ってこられたらあっという間に捕らえられてしまうだろう。
けれど、そのとき、ガラスが割れるような音がした。
「うわっ」
「なんだ、この鳥はっ」
エマにはよく分からないけれど、続き間では何事か起こったようだ。
(今のうちに……)
エマはその間にも、ギルバートに呼びかける。