王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「お願い、目を覚ましてギル。あなたのことを心配している人がたくさんいるの」
「……う」
持ってきたのど飴に、魔力を込める。意を決してエマはそれを自分の口にいれ、彼の顔を上から見下ろした。
『まず最初に、これだけは言っておく。俺は君が好きなんだ』
あの日の記憶が蘇る。
今は閉じられた瞼の奥に隠れた、空を思わせる碧眼で、まっすぐにエマを見つめてくれた。無理を承知で、妃にしたいとも言ってくれた。どんな可能性も捨てずに、前を向いていてくれた彼に、エマはあの時、冷たい返事しかできなかった。
(でももう、自分を抑えたりしない)
エマが危険を冒して忍び込んでまでしたかったのは、たった一つだ。
あの日の彼の勇気に、応えること。
「お願いよ、ギル。起きて! 私もあなたが好き。大好きなの」
目の淵が熱い。零れ落ちる滴をそのままに、エマはギルの唇にキスをした。魔力を込めたのど飴を、そっと口移しで渡す。ギルバートの薄い唇が少し開き、のど飴は彼の口の中へと落ちていった。
と、すぐに、エマは後ろから髪を引っ張られる。
「いたっ」
「な。なにしてるのよ!」
振り向けば、怒りの形相でシャーリーンがエマを睨んでいる。
「やめてください」
「そっちこそっ。意識のない王子様を襲うなんてっ。……あなたはなんて図々しいの? ただの薬屋のくせに。ただの、どこにでもいるような小娘じゃないっ。なのにどうして? どうしてよっ」
シャーリーンの声はどんどん涙交じりになっていく。
「薬を使ったって彼はあなたを見てる……っ」
「え?」
泣き崩れるシャーリーンをエマが呆気に取られてみていると、やがて続き間の扉が開き、セオドアと衛兵たち、そして一羽のマグパイがなだれ込んできた。