王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「この鳥め、でていけ」
「やーだよ。うすのろたちめ。こっちだよ」
どうやって入って来たのか、バームが追いかけてくる衛兵を小ばかにしたように頭上を旋回している。
エマもシャーリーンもそちらに意識を奪われた。
と、セオドアがバームを追うのをやめ、立ち止まった。「……あ」という驚きの声に、エマも彼の視線をたどる。その先にいるのは、ベッドに横たわるギルバートだ。
「げほっ」
まず聞こえてきたのは大きな咳の音。と同時に、体を横に向けた彼はげほっげほっと何度かむせる。
そしてゆっくりと半身を起こした。
「……ああ、びっくりした。喉に詰まるところだった」
ギルバートが、動いている。エマのにじんだ視界に、美しい金髪を持つ男性が俯いたまま頭を押さえているのが映る。
「全く。人の枕元でギャーギャーと。少し黙れ」
不機嫌そうな声に怯えたように、衛兵たちはぴたりと動きを止め、シャーリーンもしゃくりあげながら彼を見つめた。
「……ギル」
エマのつぶやきに、彼が顔を上げる。途端に「え?」と彼はつぶやき、こちらを向いた。
秋の稲穂のような金髪。快晴の空のような碧眼。その瞳に、映るのは――
「エマ? ……俺はまだ、夢を見ているのか? いるはずのないエマが見えるんだが」
「ギル……! 私が分かるの?」
「本当にエマか? 俺は君に嫌われたかと……」
ギルバートが言い終える前に、エマは彼の首に抱き付いた。
ふわり、と髪が揺れ、ギルバートの鼻先をくすぐる。
「……エマ」
「身分違いだからと追い出されてもいいわ。でも一つだけ、あなたにちゃんと伝えなきゃいけなかったことがあるの。私、あなたが好き。私のお茶をおいしいと言って笑ってくれるあなたが、大好き」
言い切って力が抜ける。へたりとなったエマをギルバートが瞬きをして抱き締め返した。