王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「触れる、……夢じゃないんだな? エマ。俺もだよ。……俺も君が大好きだ」
「ギル!」
「エマ、もう俺には笑ってくれないかと思っていた」
抱き合う二人に、衛兵は拍子抜けしたようにポカンと見つめる。セオドアもニヤニヤと頬を緩ませる。バームはシャンデリアの上にとまり、様子をうかがっていた。
そのうち、シャーリーンが唇を震わせながら、ふたりの間に割って入った。涙にぬれた顔で、エマの襟首をつかみ、思い切り引っ張る。しかし、ギルバートがしっかりと抱き締めているので、エマは自分の服で首が絞められるような状態になった。
「……やっ」
「離れなさいっ。あなたみたいな庶民が王太子様に触れるなんて……」
ギルバートが慌てて彼女の手を叩きつけたため、すぐに楽になり、エマは短い息をついた。
ギルバートはエマを庇うようにシャーリーンから隠すと彼女を睨みつけた。
「シャーリーン嬢こそ黙れ。……思い出したよ。君は一体俺に何をしたんだ?」
「ひどいわ。私を妻にすると言ってくださったじゃないの」
「君はエマじゃない。どうして俺は君をエマだと思い込んでしまったんだ?」
もはや、少しの愛情さえもみられないギルバートの瞳に、シャーリーンの心はズタボロだ。苛立ちのあまり、薬瓶を壁に投げつけた。ガチャリと音を立てて薬瓶が割れ、壁に液体が染み込んでいく。
「もう……いやっ。あなたのせいよ。あなたがいるから、みんな私の思い通りにならないんだわ」
「シャーリーン、やめろ」
「やめないわ。貴族の中から妃を娶るのが王子の義務でしょう? あなたこそ、どうしてこんな平民の娘にうつつを抜かしたりするのよ」
「エマは優しい娘だ。君に彼女をけなす資格などないだろ?」
「落ち着いて下さい、お二人とも」
そこに割って入ったのはセオドアだ。