王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「……衛兵、シャーリーン殿は錯乱しているようだ。押さえていてくれ。それと、ギルバート様が目覚めたと国王様に報告を。ギルバート様は医師に診ていただきましょう」
「医師よりもエマの薬が効くんだがな」
「お気持ちはわかりますが、今はふたりきりになることよりも、釈明にご尽力いただきたいのです。……あなたの目を覚ますために、俺もエマも……そしてヴァレリアも少しばかり無茶をしましたので」
「……?」
ギルバートは意味がよく分からなかったが、セオドアの進言にエマも頷くので、まずは場の収集に努めることにした。
医者はすぐに呼ばれ、室内に入ってギルバートが起きていることと、エマがここにいることに二重に驚きつつ、診察を始める。
シャーリーンは衛兵を相手にまだ抵抗している。
「触らないで! 私はキンバリー伯爵の娘よ」と居丈高に向かってくるので、衛兵としては王太子に向かっていかないよう人壁を作ることしかできない。
エマはセオドアの隣でギルバートを見つめていた。
「おかしなところな何もありませんね。顔色も急に戻られましたし、目の動きも悪くない。いったい何が起こったんです。目覚めたきっかけは?」
疑問符をたくさん投げかける医師に、ギルバートはにやりと笑う。
「愛する人のキスだよ。おとぎ話の定番だろう」
「ギルバート様、ふざけないでください」
「ふざけてなどいないよ。本当に目が覚めたんだ。恋しい人のキスとその涙でね」
ちらりと視線を向けられて、エマは真っ赤になった。
バームがひらりとエマの頭の上に飛んできて、「うわー気障」と呆れたように言う。
「バーム。どうやって入って来たの?」
「デイモン様だよ。あの人、俺に『エマを助けてこい』って言って、いきなり窓に石を投げつけるからさ。本当に割れるし。びっくりしたよな」
「デイモン様? ……どうして城に入れたの?」
「さあ。あの人はあの人で、いろいろ手を回していたみたいだぜ?」
バームはクルルと一鳴きし、「捕まる前に逃げる」と言い捨て飛んで行ってしまった。