王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「国王様っ」
「なんじゃ、うるさいぞ。今は謁見中だ」
「ですがっ。王太子様がお目覚めになりました……!」
「なんだと?」
国王は立ち上がり、すぐさまデイモンのほうに「すまんが、話はあとだ」と告げる。
「分かりました。また翌日参ります」
デイモンは口元に笑みを浮かべたまま謁見室から退出した。
*
エマは力が抜けた気分だった。ギルバートが目を開けてちゃんと動いている。それだけで満たされた気分で、セオドアの脇でただ立ちすくんで彼を見つめていた。
ギルバートは、いまだに不思議がる医師から、脈や目の動きを確認されている。
シャーリーンは衛兵相手に、「お父様に言うわよ!」と必死の抵抗を繰り返していた。
「もういい。俺は元気だ。記憶の曖昧なところはあるが、それは自分で確認していく。君は下がってくれ」
ギルバートは医師にそっけなく言い、熱っぽいまなざしをエマに向けた。
エマも突然射すくめられた気持ちになる。ついに言ってしまった自分の気持ち、受け入れてくれたギルバートとの優しい抱擁。つい先ほどの出来事が蘇ってきては胸を熱くし、エマの思考を奪っていく。
見つめ合っているふたりに苛立ったように、シャーリーンが衛兵の一人を突き飛ばした。
「ギルバート様。あなたは私に約束してくださいました。私を妃にすると」
しかしギルバートは冷めた眼差しを向けるだけだ。
「そのことについては正式に解消の手続きをとるよ。君からは色々と聞きたいことがある。先ほど投げつけたこの薬のことだって」
「……その薬を作ったのがエマよ! 私は騙されただけ。あなたが倒れたのも、本当はエマのせいなんだから!」
シャーリーンの発言に、皆の視線が今度はエマに集中する。エマは思わず身をすくめた。