王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「えっ、あの」
しかし、ギルバートは取り合わない。ますます憎々し気にシャーリーンを睨んだ。
「エマは人を傷つけるようなことをする娘じゃない。薬屋だぞ」
「薬屋だからこそ作れたのよ、惚れ薬を! あなたがエマを好きだと思っているのもきっとそのせいだわ」
惚れ薬という言葉に再び室内がざわめく。セオドアも怪訝な顔をし、衛兵も眉を寄せてエマのほうに注目する。
疑念の空気が室内に広がり、エマの心臓が早鐘を打ち始めた。シャーリーンは勝ち誇ったように微笑む。
「エマ、……本当なのか?」
こわばった口調でギルバートが問う。脳裏には、セオドアとヴァレリアを前にして薬を入れた時の姿が思い浮かんでいた。割れた小瓶はあの時と同じサイズのものだった。
エマは黙るしかなかった。作らせたのはシャーリーンだが、作ったのは確かにエマなのだ。
「そうでしょ。“はい”って言いなさいよ!」
「……たしかに、作ったのは私です」
エマの返答に、ギルバートは傷ついたような顔をした。その顔にエマ自身も傷つけられる。
「ほらね! この子は魔女なのよ! 王太子様、目を覚まして!」
「うるさい。シャーリーン!」
ギルバートがカッとなってシャーリーンを叱責したタイミングで、国王が入ってきた。
「……何やらもめておるようじゃな」
「父上」
「ギルバート、目が覚めたと聞いたが」
「ええ。俺の目を覚まさせてくれたのは彼女……エマです」
「薬屋の娘だな。どうやって入り込んだのやら」
国王は威圧的な視線をエマに向ける。