王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
9.王太子殿下の愛しい薬屋
まだ朝も早く、廊下にいるのは見張りの衛兵くらいなものだ。
リアンとギルバートはあまり人目につかないように足早に部屋へと戻った。
「全く、朝のお迎えに上がってベッドに殿下の姿がないときはどうしようかと思いましたよ」
部屋に入ったところで、ブチブチと文句を言い始めたのはリアンだ。
「父上に言ったのか?」
「言えるわけないでしょう。これ以上、国王様を怒らせるとあの方が倒れます。それに、エマ殿が悪く思われるのも可哀想ですしね」
ギルバートの従者とは言え、どちらかと言えば国王に心酔しているリアンのその発言に驚き、ギルバートは思わず顔を二度見した。
「……お前は父上の味方なのかと思っていた」
「そりゃ、殿下のお相手がヴァレリア様だというならば、絶対にそちらを応援しますが、……シャーリーン様でしたらエマ殿のほうがいいです。優しいいい子ですしね」
「お前、エマを知っているのか?」
「薬を買いに行ったことが何度かあります。忙しいタイミングだったようで、三人も並んでいましたが、笑顔でちゃんと応対してくれましたよ。普通にいいお嬢さんです。殿下が余計なちょっかい出さなければ彼女が傷つけられることはなかったんですよ」
「俺のせいか?」
「そうじゃないですか? 王様だってシャーリーン様だって、彼女があなたの相手じゃなければ、目にもくれないでしょう? 俺もそうですが、身分の低い従者や侍女、まして使用人の扱いなど、そんなもんですよ。下手すれば存在さえ目にも入りません」
なるほどリアンの言うことも一理あったが、その理論は気に入らない。
ギルバートはしれっと言うリアンを睨みつける。