王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
結婚式を空気だけでも味わおうと集まった国民たちが囲む通りを、幌のない馬車で手を振りながら通る。
エマも知った顔がちらほらとある。王太子妃となる“エマさま”が薬屋のエマと同一人物だと、それまで信じていなかった人もいて、笑顔の中に驚きの表情を見せる人が何人もいた。
(あたり前よね。私も、今でもたまに夢なんじゃないかなって思う)
肌になじむ柔らかさと光沢をあわせもつ絹のドレス。これが自分の身を包んでいることが信じられない。不安になって隣を見上げると、民衆に手を振っていたはずのギルバートはふとエマのほうを向いてふっと笑う。
「どうした? 疲れたかい」
「ううん。こんなに人が集まってくれるなんてすごいなって思って」
「祝福してくれてるんだよ。よく目に焼き付けておいて。国民が俺たちを歓迎するのは、俺たちが国民の生活を守る国主であるうちだけだ。俺たちはこの声援に応えるような国を作っていかなきゃいけない」
「そうね」
穏やかなギルバートの顔に、ほんの少し王子としての面を見つめ、エマはドキリとしてしまう。
(やっぱり、ギルは王子様なんだなぁ。隣に立つのが私で、本当にいいのかしら)
不安に思った矢先に、人からは見えない位置でそっと手を握られる。
「だから、君には民の目線から、俺の考えにおかしなところがあれば教えてほしいんだ」
軽くウィンクされ、エマの顔に笑みが戻る。
(そうだ。頑張ろう。私は、彼を支える存在でいたいんだもの)
ギルバートが再び馬車の外に目を向ける。エマも倣うようにこちらに笑顔を向けて手を振る民衆に手を振り返した。不思議と、民衆にまで愛情がわいてくる。ギルバートの愛するすべてのものを一緒に守っていくのだと思えた。