王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
グリーンリーフを経営しているのはバーネット一家だ。
父親のジョンが原材料の仕入れやハーブ作り、母親のベティと娘たちが薬の調合をし、交代で店番もしている。
「ジュリア、在庫の帳簿を記入してちょうだい。風邪薬が十個追加、栄養剤は二十個……」
エマが読み上げたものをジュリアが台帳に記入していく。まだ開店前だというのに、窓の外からはチラチラと視線を感じた。どうやら開店するのを待っているらしい。
「最近、お客さん多いね」
「ホントね。栄養剤がいくら作ってもすぐなくなっちゃう」
エマはため息をつき、ジュリアが在庫記入を終えたのを確認すると、店の鍵をあけた。
「もういい?」
「ええ。いらっしゃいませ。お待たせしました」
そして、店の表にかけてあるプレートをcloseからopenへとかけなおした。
先ほどから視線を送っていたのは、城下町に居を置くキンバリー伯爵家に勤める侍女のヘレンだ。
「エマ、栄養剤はあるかしら」
「またですか? なんか最近、皆さんその薬ばかり買っていかれるんですよね」
しかも、買っていくのは街の人というよりは、王城で仕事をしているメイドたちが多いのだ。
「ヘレンさん、そんなにお疲れならどこか悪いんじゃないですか? もっとちゃんと症状が分かれば、別の薬を出しますけど」
「いいの、本当に疲れているだけなのよ。何せ毎週のように舞踏会があるんだもの。お嬢様の衣装も、髪飾りも、同じものというわけにいかないじゃない。こっちは準備で休む暇もないわ」
「そうなんですか。大変ですね」
エマには彼女の苦労はよくわからなかったが、とりあえず同意しておく。