王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~


僕とエマの出会いは、今から十年ほど遡る。

ここより北の、ノーベリー領の端にある屋敷で、ふたりの小さな魔女が遊んでいるのを僕はよく見ていた。
姉がエマ、妹がジュリア。ほかに子供がいないから、いつもふたりだけで遊んでいた。


「エマが面倒見てくれるから助かるわ」


母親のベティのつぶやきに、ジュリアは無邪気に笑ったが、エマはほんの少し口元を緩ませただけだった。

ふたりは仲が良かったけれど、子供なんだからケンカだってする。年齢の違う者同士が一緒にいたら、通常は年が上のものが我慢させられることは多いのだろう。ジュリアが親に泣きついて、エマはいつもひとり外に出て、歯を食いしばって涙をこらえていた。

ある日、僕は近寄ってみたんだ。

“なぁ、泣くなよ”

まだ使い魔契約をしていないときで、エマは僕の言葉を理解はしていなかったと思う。彼女は僕を見て、本当に“ぽかん”という言葉が当てはまるような呆けた顔をした。
そして思い立ったように、ぎこちない笑顔を向け、声真似をしてきた。


「く、くるっくる……」


僕は笑ってしまった。なんだよその顔。目の周りが赤くて、すごく不細工だぞ。それにそのへたくそな声真似。そんなんで、コミュニケーションがとれると本気で思ったのかよ。
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