王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「クラリス様から伝言を預かって来たよ。ジョンとベティを呼んで」
「分かったわ」
エマが店のほうに向かい父母を呼んでくる。その間の店番は妹だ。
「クラリス様からの返事ですって?」
クラリスは、現在最高の魔女と呼ばれる、魔法使いの世界での重鎮だ。今は辺境地のノーベリー領に住んでいる。
バームはふたりがそろったのを見ると、抜いた羽をふっと空に投げた。
キラキラとラメが零れ落ちるみたいにきらめいて、羽が空気に溶けていく。と同時に、言葉が魔女たちの耳にクラリスの声で聞こえてきた。
『王城での仕事の件、受けましょう。エマを派遣するように。くれぐれも、秘密がバレないように気を付けて』
バーム特有の伝達方法だ。魔力を使って、伝言の羽を作ることができる。
もちろん、聞き取れるのは魔力を持った人間だけだが。
それよりもエマはクラリスからの返答に驚いていた。
「ええーっ! 母さんじゃなくて私なの?」
エマも薬づくりはするが、メインはベティの仕事だ。いきなりひとり立ちとしろと言われても不安しかない。
「まあ、エマなら二十歳にもなったし、ひとりでも大丈夫かしら。風邪薬や栄養剤は毎日ここから城まで運べばいいしね。……どちらにせよ、キンバリー伯爵の話は断れない。クラリス様もこういってくれているんだし、従うしかないわ。私、キンバリー伯爵にお返事を書くわね」