王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
2.薬の効果をお試しください


あれよあれよという間に、グリーンリーフの王城出張販売の話はまとまった。

王城は城下町より一段高い丘の上にあり、周囲には堀があり、敷地は壁に囲まれている。
跳ね橋を通って敷地に入ると、西側に厩舎、東側に騎士団の訓練場があり、正面に石造りの王城がそびえたつ。

エマに与えられた場所は、城の一階の東端だ。その日、エマはキンバリー伯爵の使いの男に案内され、その部屋を訪れた。

裏口から騎士団の訓練場に出られる場所で、向かいは城付きの医師の部屋である。

医師は怪我の絶えない騎士団員の面倒を見ることが多く、個室の隣にある部屋で手術行為をするのだという。もちろん薬の調合もするはずだ。そんなところにエマがいけば反感を買うのは間違いない。

実際、廊下を歩いていたエマは、緋色の長衣を着て髪をしっかり帽子の中にしまい込んだインテリ風の三十代医師と出くわしし、私がいるのになぜ……というような猜疑心溢れた視線を受けてしまった。


(なんて気まずいの……!)


「は、初めまして。私、グリーンリーフのエマと申しま……」

「ああ。どこの馬の骨ともわからぬ薬屋か。ふん、私の患者たちに変なものは与えるなよ。特に国王様をはじめ王族には絶対処方するな。君が相手をするのは、メイドや馬番たちだけだからな」

「はあ」


目の前で扉を閉められて、エマもいたたまれない気分になる。

しかし、それも仕方がないかという思いはある。
エマは平民だ。本来なら、王城に住まうことなどできない身分なのである。城下町にいるようなインチキ医師とは違って、王城付きとなる医師は他国に留学して医療技術を身に着けてきたエリートなのだ。こんな町娘が同列に扱われると知ったら不機嫌になるのもやむを得ないだろう。

実際、エマはここに住むことになっても、王族にはお目通りも叶わないし、キンバリー伯爵当人にもまだ会っていないのだ。

< 23 / 220 >

この作品をシェア

pagetop