王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「こちらです。エマ殿」
「ありがとうございます。……わあ」
従者に扉を開けられ中を見て、エマは思わず歓声を上げた。
まるでグリーンリーフの工房のような部屋だった。壁一面に棚があり、一ヶ所だけ明り取りの窓がある。手前には大きな作業台があり、奥に注文客が待つためのソファも置いてある。
続き間もあるようで、そちらを開けると寝室になっていた。簡素だがベッドが置かれ窓際には花が飾られていた。
「水は裏口を出てすぐのところポンプ式の水道があります。あと湯を沸かしたいときは、この部屋から二部屋隣に厨房があります。ここは主に騎士団員用の食事を作る料理人が使っています。利用するときは一声かけてから使ってください」
「はい」
「ほかにも、薬づくりに必要だと言われたものはすべて棚に収まっています。他に不足があれば私におっしゃってください」
「ありがとうございます。ええと、あなたのことはどうやって呼べば」
「私はチャンドラー=クックです。チャンドラーとお呼びください。キンバリー伯爵について毎日のように城にきておりますので、また顔を出しますよ」
「分かりました」
要は都合のいいときだけ顔を出すというわけだ。もし何か緊急に助けがいるときを思うと不安が頭をかすめる。
「キンバリー伯爵は、あなた方の薬に期待しておられます。頑張ってくださいね」
「はい」
チャンドラーは言うだけ言うと、満足して出ていった。