王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~

ひとりになったエマはホッと息をつき、持ってきた鞄を、ベッドの脇に置いた。


(これからここが私の城か)


幸い、寝室の窓は大きい。これならバーグを呼ぶのに困らないだろう。
窓を開けて新鮮な空気を入れると、一番に目につくのは、緑の葉っぱが茂った木だ。そこから少し離れたところに水場があり、騎士団員が休憩中なのか数人集まっていた。


「男の人が多いのがちょっと気になるけど。まあ覗きをするような人もいないわよね」


それにしても寒い。
こんなに豪華な城だが、石造りのためか空気がひんやりしている。床にカーペットを敷いていても、足先から冷えが伝わってくる。

続き間との扉を開けたまま、エマは薬屋としての部屋の方に向かう。

エマはまず、薬づくりの材料を確認した。
干した薬草、木の実、糖蜜、果実酒。すりこぎと消毒用の酒、それに、煮詰めるためのアルコールランプ。
一通りそろっているのを確認した後は、自分で持ってきた出来上がり済みの薬を棚に並べる。
よく使うことが多い、栄養剤と風邪薬、痛み止め、睡眠薬、それに塗り薬をいくつか。

身の回りが整うとホッとする。


「ひとりなんて不安だけど、大丈夫よね、きっと」

「僕を忘れてもらっちゃ困るね、エマ」


聞きなれた声に寝室を覗くと、バームが窓の桟のところに止まっているではないか。

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