王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~

「セオドア様ですね。今後は気を付けますわね。私ったらぼうっとしてしまって」

「大丈夫ですか? 侯爵家のお嬢様が侍女もつけずに歩くなんてどうしたんですか?」

「侍女……には内緒で散歩していたんですの。その、考え事をしたくて」


ほう、と口から出るため息が薔薇の花でも生み出しそうだ。
間近で見ると彼女の美しさは噂以上だ。セオドアの心拍数がみるみるあがっていく。


「お部屋までお送りしましょうか」


セオドアの申し出に、ヴァレリアは目をぱちくりさせる。


「あ、いや、不埒な考えで言っているわけではなくてですね。俺みたいな筋肉の塊とぶつかったんですから、あなたには相当の衝撃があったのではないかと思って。今はわからなくても時間がたって痛みが出ることもあります。あ、薬なら、詰め所に向かう前のグリーンリーフがおすすめですよ。ご存知ですか、最近できた薬屋なんですが」


焦りとともに一気にまくしたててしまう。
その間にヴァレリアは瞬きを一度しかしていない。見つめられていることに焦りを感じ、セオドアはどんどん早口になっていく。


「……聞いたことがあります。キンバリー伯爵様が連れてきた薬屋があると。私の侍女が、気に入って通っているようです」

「そう、そこです。騎士団の間でも大人気で」

「……でもお薬で私の悩みは無くならないものね……」


寂しそうにポツリとつぶやいて、ヴァレリアが苦笑する。
その可憐な姿に、セオドアの頭はますます熱を帯びてくる。


「では……」


と歩き出したヴァレリアの背中に、「あのっ」と思わず呼び止める。


「はい?」

「もしも悩みがあるのならば、わ、私で良ければ相談に乗りますよ。ええ。いつでも」

「騎士様が? 私の相談に?」


問い返されればたしかにお門違いな申し出をしていると思えて、セオドアの顔が真っ赤になる。
しかし、ヴァレリアの返答は予想と違ったものだった。


「……そうね。お話を聞いていただきたいわ。どこか、人目のつかない場所はないかしら」


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